其処はいつも桜の花が咲いていた。 「お帰りなさい、お疲れさま」と微笑む姿と共に。 季節は巡り、桜は散り、桜の花の代わりに白い雪が降るようになった頃。 その姿は消えた、いや、違う。 近付いてみれば、白い雪の中にすっぽりとその姿は埋もれてしまっていた。 慌てて、その名前を何度も叫びながらその白い雪を掻き分けた。 呼ぶ声に微かに震えた瞼、ゆったりと開かれる目に心底安堵を覚えた。 何をしているのですか!?と怒鳴り付けた、でもその夢心地の目、微かに開かれた唇。 声はか細く、告げられたのはとても悲しい愛の告白だった。 驚きで思考が真っ白に染まる。 解ってる、と涙を零しながら、この想いが叶う筈はないとそう告げるか細い唇。 告げられたごめんね、と閉じられていく瞼、それに気が付いて、再度名前を呼んで、その身体を抱きしめて叫んだけれど、彼と同じ愛の言葉は如何しても出て来なかった。 叶う筈の無い愛だと言っていた、確かにその通りだった。 だって自分は彼を愛してなどいなかった。 それでも、涙が溢れて止まらないのは。
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